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質疑応答
藤堂:宇野先生、どうもありがとうございました。息子を見ておりまして、私はずっと、この子は他人とは考える回路が異なっているだけなのだと信じてきましたが、本日の先生のバイパスという形で補って考えているというお話は、非常に納得のいく思いでございます。
宇野先生にはお忙しい中、ご講演いただきました。せっかくの機会ですので、皆さんも何かお聞きになりたいことや、今日のご講演についての質問がおありでしたら、お時間まで先生にお尋ねになってください。

松橋:星槎国際高校の教諭をしております、松橋と申します。本校ではLD以外にも完全に知的に遅れのある子など本当にさまざまな生徒が通っています。色んな症状を見ている中で、やはり聴覚的なものが強い子、視覚的な方が強い子が出てきたなと感じています。その中でも、継時処理とか同時処理の問題もあるかなと思いまして、その特徴をどういう風に視覚、聴覚のバイパスに加えて、継時処理、同時処理の特徴を生かした指導をしたら良いのか、教えていただきたいと思います。

宇野:ご質問ありがとうございました。今、継時処理とか同時処理とか耳慣れない言葉が出てきたかと思いますが、これはある検査では強調されているのですが他の検査ではあまり言われていない用語なのです。同時処理というのは図形をある短い一定の時間だけ見て、どういう風に認識するかという能力の事です。継時処理というのは非常に短い時間に、ほんの数秒の間に、どれだけ覚えられるかということなのです。たとえば数字を「2・6・8・5、はい、もう一回言ってみてください」とか、単語を「犬、猫、猿、馬、はい順番に絵を指差してください」というような課題です。この継時処理のことを、私たちは短期記憶と言っています。この短期記憶は大きく分ければ記憶にも入りますが、非常に注意機能が介在することで有名な能力なのです。大人の記憶障害を専門にしている先生方は、そういう記憶は記憶というより注意力だねと、という風に考えていらっしゃる方のほうが、断然多いのです。なぜ先生がそういう質問をなさったかということを推測致しますと、おそらく短期記憶が悪いと長期記憶も悪いに違いなくて、そのために覚えられないのでは、というのが普通に思われるストーリーかと思われますが、実はこれらは全く独立した能力なのです。日本の小児を研究している科学者はあまりそのようなことは言っていないのですが、私たちのデータでは短期記憶と長期記憶力は独立していました。そういう短期記憶の検査では一回限りで覚えるわけですよね。すぐ言えるかどうかをみるわけですから。大人の典型的な記憶障害の方は、実はそういう能力にはとても優れているのです。短期記憶はすごく良いのだけれど、覚えてはいられない。私たちも人の名前はすぐ忘れてしまいますよね。その人はどういうふうな人であるかということはよく覚えていても。やはりこれらの能力は独立しているのです。学習というのは一回限りのものではありません。何回も覚えます。試験のときまでは少なくとも覚えておかなくてはいけません。ですから学習は短期記憶ではなく、長期記憶です。今日は時間の関係でお示しできませんでしたが、われわれのデーターですがこんな結果があります。15個の単語を5回繰り返して練習して何個覚えたかという検査があります。それを覚えてもらった後に、全然違う単語を15個を一回だけ聞いて覚えてもらう。その次に30分ほどたってからまた、最初に5回ずつ覚えてもらった単語を思い出してもらうのです。30分後にどれだけ覚えているかという点数と、今、継時処理とおっしゃった能力と相関係数を取ってみますと、健常児分でも障害児分でも0.1と-0.1. これはもう、まったく独立した話です。私たちはそういう意味で学習と計時処理能力は違うのではないかと思っています。ですから私は、数字を何個瞬間的に覚えられたか、逆から言えたかということと学習とは関係性が低いと思っています。ただ、15個の単語を5回聞いて覚えられない子は、やはり九九も読み書きも苦手ですね。
一方、図形を見てどれだけ認識できるかとか、覚えられるとかという能力はかなり影響があると思います。これは欧米ではあまり言われていないのですが、ある時イギリスで私が専門の教授に「どうして欧米ではそういう視覚情報に関する検査をやっていないのか。われわれは欧米の先生方がおっしゃっている音韻の検査もするし、視覚上の検査もした上で、あれこれお話している」といいますと、確かに聴覚や音韻に偏った検査をしているかもしれないとおっしゃっていましたね。世界情勢も今後は変わる可能性があると思います。
いずれにしても日本語に関しては、図形を記憶する能力がずいぶん関わっていると思われます。しかし、やはりわからないことがあります。たとえばひらがなの障害がないのに、どうしても逆唱ができない、ひらばやしという人に名前を逆唱してもらってもなかなかいえなかったり、非常に時間がかかりすぎる子がいまして、それはたいてい漢字の読み書き障害の子なのですが、それはなぜかはまだ解明できていません。しかし、先ほどのお話のように短期記憶と学習は違うと私は思っています。長い説明になってしまいましたが、ポイントだけ申し上げますと、15個の単語が覚えられないと私達が開発したこの聴覚法は生かせません。
視覚上の問題がある読み書き障害を呈する児童で、かつ聴覚的に15個の単語が10個以上30分覚えていられるのなら、この聴覚法は有効ですね。それからもう一点、推理力の検査をします。ものを推理する能力です。これはレイブン色彩マトリシスといって外国でもよく使われている検査ですが、日本で初めて健常児のデーターを出しました。それは細かい図形も使っていませんし、指差し課題なので、手がぎこちない児童の場合にも影響が少ないのです。言語性のIQ検査では知識に影響されますがこの検査の場合は、言葉の発達が遅れていても、細かい図形の認知が苦手でも使えます。レイヴン色彩マトリシスのスコアが良くて15個の単語がよく覚えられるようであれば、聴覚法も使える。しかしどちらかが欠けていると自信ないですね。海馬という記憶の中枢といわれている場所が障害され、実際に記憶障害になっているお子さんの場合、聴覚的にも記憶が十分にはできませんので、その場合は読み書きに関しては、大変申し訳ないのですが、われわれではお手伝いが十分にできないということです。
来年になればもう少し一般にもできる検査が発売されますので、先生方でも少しは楽になられるのではないでしょうか。今の時点ではあまりにも検査が少なすぎますね。

松橋:生徒で字を書くのが苦手で、自分でも字が下手ですみませんという子がいます。その子は聴覚的な能力が良いように思えましたので、英語の単語をMonday、Tuesdayという風にテープに吹き込んで覚えさせているのですが、まだ十分にはすすんでいなものの、以前までの学習よりは、かなり効果があるように見受けられます。ただ、この子のWISC-Rの結果がまだ出ていなくて、知能のほうも少し落ち気味かなという感じはありますが。

宇野:そうですね。ただ、その方法には先生方もお気づきだと思いますが、欠点もあります。長い単語は覚えられません。やはり平行して、クはKとかCKとか5通りくらいあるようですが、システマチックに覚えていく方法も必要です。それは今後英語や漢字ができなくなってくるお子さんには、こういう仮名的な、こういう音にはこういう文字が対応するんだよというシステマチックな方法だと27文字しかありませんので、併用すると効果があると思います。イギリスのディスレクシアのお子さんにはそういうような方法で教え方をしていて、その表が発売されていました。
もうひとつ、解釈についてなのですが、多分これは古典的にいろんな日本の有名な先輩のLD学者が使っている言葉で、視覚・聴覚ということがありますが、先ほど、質問なさった先生もお使いになっていましたが、私は乱れた表現だと思って、ちょっと気になっています。たとえば一般に視覚や聴覚と使われているのをよくよく聞いてみると、聴覚は音声言語で、視覚は非言語的図形だと思っているのです。それでは非言語的な音であるサイレンとか足音を聞き取る能力と、文字の能力と、文字というとこれは視覚ですが、そういう言語的な視覚図形の能力と、比較していないのですね。まったくレベルの違うことを言っているなと思っています。(ここから次の頁の2行目までカットしましょう)非言語的な図形と、言語音声との比較はどうやってできるのかなと思っていまして、7,8年前に上野先生にお話しましたら、ITPAを日本版に翻訳するときに「気がついていた」とおっしゃっていました。(ここまでカットしましょう)ですから比べるときには音声言語に対しては言語でしたら言語の図形でしょうね。文字だと思います。聞いてわからないことは見てもわからないといいますが、私たちも復唱して意味がわからない単語は、たとえば仮名で音読できても意味がわからないと理解しています。共通のはずなのです。しかし、それに漢字が入ればまた違いますね。漢字は直接的に音読しなくても意味はありますから。こういったことから、私は使い方を注意したいなと思っているわけです。

藤堂:本日は一番聞いていただきたい文部科学省の方が、欠席ということですので、折を見て質問状をおだししたいと思います。一昨年に定義が出され、今年からLDに対する認識もずいぶん広まってきまして、予算もつき、47都道府県で一斉に調査が始まったということです。それによってLDの発現率がどれくらいか、また、モデル校を作って実験的にどういう方法がLDに効果があるかということを調べるということなのですが、その際に、どういう方法でLD児と認定しているのかということを知りたいですし、またその方法を統一してくれないと、発現率の意味もないと思います。以前、上野先生がこの会で、大変気になる発言をされました。発現率が2%前後という数字は、当時の文部省が予算の関係でそれくらいにしてくれといったので、ということがありまして気にしております。LDであるとかLDでないということを見るときに、―私としてはディスレクシアといいたいのですけれど―まず始めに手っ取り早い判断方法があって、その上で、ではこの子はどこのどの部分でどういう形で困難さがあるのですかと、そしてそれならばどういう教え方が一番かという、本日の宇野先生のお話にもありましたような段階を踏んでいくのがベストではないかと思われます。後5分ほどしかありませんが、簡単にこういう方法があるのではないかと言うことがありましたら、お話をしていただけませんでしょうか。

宇野:わかりました。私も一昨日、千葉のLDの専門家会に行って同じ話しをしてきたところです。本当は各県で診断すること自体がおかしいと思います。診断基準は本来中央で一括すべきだと思うわけですが、普通の県は多分アンケート調査をすると思います。アンケートを現場の先生に出すのだと思いますが、私は大反対です。私も経験があるのですが、その方法は検出率が低くなるのです。というのは現場の先生方は読み書きに関して、自分の受け持っている子供たちが、本当にどれだけできるかということをチェックしていないことが多いからです。たとえば私が2年前にアンケート調査をしたときには、ひらがな一文字が7割しか書けない子は何人ですか?という質問に対し、1コンマ何パーセントという障害出現率なのです。昨年645名のデーターで、本当はもっと数字は多いのですが外国人や知的に問題のある子、自閉症の子どもを除きましたのでこの人数になったのですけれど、これらの子を対象に客観的に調査をいたしました。これは日本で初めての調査だそうです。まず、私たちが作った簡単な知能検査をします。これは15分間でできます。それから読み書き、それから計算、言語の発達などすべてを調べました。その中で、漢字の書字だけは脳の機能を見ないとはっきりと言えませんが、ひらがなカタカナの問題に関しましては3%台の出現率です。これはアンケートの約2倍の出現率です。もちろん標本集団も違いますし、人数も違いますが、私はアンケートのほうが低く出るのだろうと思います。特に学校の、軽い読み書き障害の子どもは、学校では問題を起こさないのです。ちょっと勉強のできないくらいの子として、学校の先生をあまり困らせないようなのです。むしろ行動面に問題のあるお子さんのほうが、先生方は対応が大変なので目立ちません。ですからADHDや自閉症のお子さんのほうが目立ちます。私は客観的に包括すべきだと思います。すでにそういう手法があるわけですから。今までは、まずアンケートがあって、定義にある全般的に知能の遅れはないがという部分に関しても、通常学級の子がすべて全般的知能の遅れがないかどうかというチェックはできないですし、先生方の間でも、学力テストで個人の価値を決めるのかといった考えをお持ちの方は拒否されるでしょうし、細かくは調べることは困難だったと思います。モデル校ではすべてを細かく調査すべきだと思います。それで、県で一校、モデル校をやればたとえば千葉県なら700人あまりの学校ですから700人としても47校と単純に計算してもかなりの数になるわけですし、それを客観的に
評価すれば、出現率もそれ相応に出てくると思われます。アンケートでは私は信頼できないと思います。というのが私の主張です。

藤堂:文部科学省もせっかく税金を元に予算を組んで、こうした取り組みを実施されるなら、効果的な、客観的な数字を出してもらいたいと思います。本日ご出席の議員秘書の方々には、是非その旨、お伝えいただけますようよろしくお願いいたします。
もう、お時間も残りわずかですが、何かございましたらどうぞ。

宇野:
福祉の話をしませんでしたので、一言よろしいでしょうか。私は所属が厚生労働省の管轄の研究所ですが、福祉に関する研究もいたしております。私の専門は高次神経機能障害といいまして、たとえば耳は聞こえるけれど何の音かわからないという、後天性の損傷がございます。聴覚失認といいます。同じように視力は正常だが、どういう形だかどうしてもわからないそういう視覚失認の人たちがいます。記憶障害の方達も含めて、皆さん障害としての福祉法の認定を受けていません。福祉法にそういう方たちは入ってこないのですね。認められていません。福祉法の恩恵を被っていないのです。35万人はいるのではないかと推定されます。当時、厚生科学研究の班長を2年続けてやらせていただいたときに、そのことを厚生省に報告いたしました。学習障害や読み書き障害は明確に高次神経機能障害のひとつなのです。学校での学習においても遅れているこのお子さんたちが、就職のときにどうするのか。
健常児のようにはいかないです。マニュアルを読めないのですから、マクドナルドでも働くのは無理です。親御さんには障害児と表現してしまうのには抵抗があるのですが、それでも何らかの福祉的な援助が必要と思われているお母さん方は、私がアンケート調査させていただいたときの資料によれば7割くらいいらっしゃいます。特に就職はとても大変です。また、早期発見は学校に入る前だと思います。ですから、それは厚生労働省ですね。そこから就労まで途中、文部科学省があってまた厚生労働省になるわけです。省庁の再編成はもう終わってしまったようですが、ご協力をいただきながら、長いスパンで考えていただけるとありがたいなと私は思っておりますので、よろしくお願いいたします。(拍手)

藤堂:言いたいことを先生がすべておっしゃってくださって、どうもありがとうございました。今日は、超多忙な先生に、本当にもったいないようなお話をたくさんしていただきましたのに、われわれの組織は、まだLDのことに関しての準備段階ですので、何のお礼も差し上げることができません。先生のご厚意で、これだけのご協力をしていただきました。宇野先生、本日は本当にどうもありがとうございました。

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